つくる女性

WOMEN MAKE

リーガルのものづくりへのこだわりと信念。
同様に心を込めて、それぞれの作品に向き合う女性をご紹介します。
ものづくりへのこだわり、ファッションへの考えなど、そのライフスタイルについて語っていただきました。

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第10回 洋菓子作家 八木美和子さん

清澄白河にある現代美術のギャラリー「HARMAS GALLERY(アルマスギャラリー)」。その店先で開かれているのが、おやつスタンド「PARLOUR HARMAS(パーラーアルマス)」だ。ガラスケースには、つつましやかに焼き菓子が並べられ、自家製シロップを使ったドリンクなども提供されている。黒板に書かれたメニューを眺めるだけで、ほっとするのはなぜだろう。パーラーアルマスの菓子作家、八木美和子さんがクッキーを焼く姿を見たとき、その理由がわかった気がした。

台の上に製菓道具が並べられ、まるで儀式のように作業が始まる。「最初はあまり人気がなかったのですが、だんだんとリピーターが増えました。一度食べると癖になる味です」そう笑う彼女は、慣れた手つきで材料を混ぜていく。あっという間に、薄荷(はっか)が香る生地ができあがった。 型で丁寧に抜き取られ、天板の上には馬のシルエットがずらり。「馬は、賢くて格好よくて昔から大好き。素材の味を一番に楽しんでいただきたいので、装飾的にはせず、シンプルな形に仕上げることが多いですね」
身体にやさしい素材で作られる、パーラーアルマスの菓子。特に大切にしているのは、旬の素材を使うこと。馴染みの青果店で旬の野菜や果物を見かけると、どんなお菓子にできるかと、想像をふくらませる。
「たとえば、杏の旬は短いので、見つけたらすぐ買ってしまいます。これを逃すと一年後と思うと、どんなに忙しくてもコンポートやジャムをつくってしまい……野菜や果物の旬に、踊らされている気もします(笑)。夏場だとプラムや桃、アメリカンチェリーが時期。つくったコンポートを炭酸水で割ったり、生のままパフェにしたりします」

八木さんが菓子作りを始めたのは、コピーライターとして働いていた頃からだった。「大学時代から日本語の表現に魅せられ、新卒でコピーライターになりました。やりがいはあったのですが、書いたコピーが世に出ている頃には次の案件に悩み、以前のコピーが正解だったのかもわからないままという繰り返し。そんなとき、私の心を楽にしてくれたのが料理でした。野菜を切って、鍋に入れればその日のおかずができる。当時の私には、仕事がその場で完結する、確かさのようなものが必要だったのだと思います。その後、菓子づくりにも没頭するようになり、10年前に会社を辞めました」
カフェなどで経験を積み、4年前にパーラーアルマスをオープン。近隣に着実にファンを増やす中で子どもが生まれ、生活は一変した。「娘が保育園に行っている間に、集中的に仕込みをするので、いつもばたばたしています。ただ、私の周りには、子育てをしながらも自分の活動に全力を注いでいる女性が多く、いつも刺激を受けますね」
そんな女性たちにはとても及ばない……と謙遜する彼女だが、周囲の頑張る女性たちを、やさしい風味の菓子と、やわらかな笑顔で癒しているのは、ほかでもない八木さんだ。
「昔あった、駄菓子屋さんのようなお店になればいいですね。これからも、公園帰りの親子連れや、ギャラリーめぐりをされる方、ご近所の方がふらっと立ち寄ってほっとできるような場でありたいです」。