つくる女性

WOMEN MAKE

リーガルのものづくりへのこだわりと信念。
同様に心を込めて、それぞれの作品に向き合う女性をご紹介します。
ものづくりへのこだわり、ファッションへの考えなど、そのライフスタイルについて語っていただきました。

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第14回 和菓子作家 坂本紫穂さん

透明感ある笑顔が印象的な、和菓子作家の坂本紫穂さん。「初秋に似合うお菓子」という漠然としたオーダーに応え、製作に取りかかってくれた。三色の餡を丁寧に丸め、紫色を外側に包んでいく。僅かなゆがみも許されない小さな世界が手の中に広がり、集中した視線と繊細な指先が、花びらをかたどっていく。白がほんのり透ける、やさしい紫。シンプルなかたちに美しい陰影を宿す桔梗が、皿の上に咲いた。

和菓子の世界に飛び込む前は、IT企業に勤めていた。魅力的なコンテンツを生み出し、その魅力をどう伝えればいいのかを学ぶ日々。充実した毎日だったが、あわただしさの中で、自分が本当にしたいことは何か考えるようになった。なるべく早く自分の方向性を決めたいという焦りもあったそうだ。 そんな中、彼女が和菓子をつくり始めたきっかけは「夢に出てきた」という不思議なもの。真剣に将来について考えていたタイミングで、その夢を無視できなかった。 「思えば、私が好きなこと、今まで学んできたことがすべて重なり合ったところにあるのが和菓子でした。美しいもの、食べ物、小さいもの。私の好きが詰まっている和菓子の魅力を、自分らしい方法で広く伝えたい。そう思ったんです」
独立し、今まで和菓子作家を続けてこられたのは『誰かのためのお菓子』をつくるチャンスに恵まれ、日々進化しつづけてきたから。
「練習ではなく、誰かの目に触れ、食べてもらえるお菓子をつくるには、やはり緊張感と集中力が必要で、その経験を数多く積ませていただけたことは財産です。以前は、いろいろな気負いもあったと思いますが、今は肩の力が抜け、年々お菓子がシンプルになってきました」

近年、彼女のもとに届く依頼は「坂本さんにおまかせしたい」と一任されるものがほとんど。全幅の信頼に応えたいという気持ちとともに、責任を感じる瞬間だ。その際意識するのは、その場にふさわしい和菓子にすること。「和菓子が場の主役であることはほとんどありません。だからこそ名脇役であってほしいので、和菓子が置かれるシーンを詳細に確認します。場面を濃密に想像できれば、早いと数秒で和菓子の色、かたちが決まります。そして、和菓子には今の自分がすべて出てしまうので、心身を整えることがとても大事。問題が起きそうなときは早めに対処して、スケジュールも徹底的に管理しています。睡眠をきちんととり、ヨガで心身の調整も心がけています。ちょっとアスリートみたいですよね(笑)。でも、今を大切にするために管理が必要なんです」

今を大切に…と話す彼女に、少しためらいながら「この先」について問いかけた。
「和菓子の文脈を大切にしながら、現代のお菓子をつくりたい。そして、そのお菓子で人をよろこばせたいです。これまでも、今もずっとそんなことを考えています。きっとこれからも」
本当は、訊ねるまでもなかったのかもしれない。無駄のない、本質的な彼女の望みは、つい先ほどの桔梗が語ってくれていたのだから。

坂本紫穂 和菓子作家 栃木県宇都宮市生まれ。
オーダーメードの和菓子を作品として制作・監修。
日本国内および海外で和菓子教室やワークショップを行う。
https://shiwon.jp